つらい状況の人、そうでない人、どちらにも光を届けられる。

阿部暁子さんの『カフネ』を読みました。2025年本屋大賞の大賞受賞作品です。私は受賞発表後に購入しました。ただでさえ手元にくるのが遅かったのに、なかなか読む気になれなくて、本屋大賞が盛りあがっているあいだに読めるかどうか不安でした。なんとか読むことができてよかったです。ただ、本は読みたいときに読むことを信条としている、タイミングをなによりも大切にしている私なので、不安だろうと、なんだろうと、読む気になるまでは気持ちを温めるつもりでいました。

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まず、表紙の印象で、ハートフルな物語だと思い込んでいたので、つらい、つらい、と感じながら読むはめになりました。涙も、何回、こぼしたかわかりません。ただ、読んでいるときは、確かにつらかったのだけれど、気持ちが落ち着いた今は、甘くない、と表現したほうがいいような気がしています。

私は、小説を読むうえで、物語のなかでくらい甘くてもいいじゃんと思っています。現実は甘くないと感じているからです。つまり、私にとって、『カフネ』は現実に寄った物語でした。最後には新しい関係が結ばれて、温かい気持ちで本を閉じられましたが、その関係にも驚きました。

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おそらく、人生の半分ほどを生きている私ですが、主人公の薫子ほど、どん底に落ちたことはありません。今が落ち着いているから、そう思えているのだろう、ということはわかっています。人の感情って、そういう、いいかげんなものです。でも、そんな薫子の視点で物語が進むからこそ、今、つらい状況の人、そうでない人、どちらにも光を届けられるのではないかな、と感じました。

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